相性が悪い名医

 

山内先生はその外見を見ただけで、職業は“医者”とわかるような、立派な雰囲気を持った先生だ。ハンサムで背がすらりと高く、カッコイイ。性格的には物静かで穏やかな感じで、声は低く落ち着いた美声。でも山内先生の治療法は厳しい。甘やかされて育った私にとって、山内先生は頑固親父のように感じた。
躁状態のとき私は山内先生に
「外科医になれ!!!」と叫ぶように言い放ったことがある。
今思うとなんてひどいことを言ったのだろう。でもよく外科の先生はきついという。私は山内先生のきつい治療法が正直言って嫌だった。
ここには詳しくは書かないが、あるきっかけで私は山内先生から去って違う病院へ行った。でもその病院は開業医で、入院ができないので、私はまた再び山内先生の患者となった。
山内先生は前は違う先生からの引継ぎで主治医になっていたのだけど、再び山内先生が主治医になったときは私はひどい状態で病院へ入って、初めから山内先生の治療を受けることになった。むちゃくちゃな躁状態のとき、私は山内先生にありとあらゆる妄想を話した。先生はいつも物静かに穏やかに聞いてくれたが、手厳しい答えが返ってきた。
 でも私の変な妄想をとってくれたのは山内先生だけ。山内先生の前に3人の先生に診てもらったけど、私の妄想をとってくれたのは山内先生なのだと思う。
ある日突然、山内先生が
「あなたの場合は、長いこと話をきかないと治療できないので、若い先生に代わってもらいます。」
とおっしゃった。私は
「嫌です!」と言ったら。
山内先生が
「あなたからそう言われて嬉しい。」
と言ってくださった。私もそう言われてとても嬉しかった。
若い先生すなわち小林先生が主治医になって、私が病院を退院したころ、山内先生が開業医になった。みんながびっくりした。皆が勝手な噂で次期院長は山内先生だよね。と言っていたからだ。
 小林先生が突然転勤することになり、私は開業された山内先生のクリニックに通う事になった。
 久しぶりに山内先生に会った。先生は
「いやあ、あなたは良くなったね〜。」
と言ってくださった。私自身はそんなに自分が良くなったとは思っていなかったから意外だった。自分が山内先生がおっしゃるように良くなったことにも気付かなかったので、その言葉でとても自信がついた。
「あなたの妄想をとるのにどれくらい苦労したか。。。」
ともおっしゃった。

 

今でも山内先生は厳しい。しかしそれが優しさから来る厳しさだという事がわかるようになった。最近は私もすごく調子が良いので、山内先生はいつも笑顔で接してくれるようになった。状態が悪い時は厳しい顔をしてみえたのに。先生は自分の患者が良くなることが自分のことのように嬉しいと思ってくださっているのだろう。
ここ最近私のうちの目と鼻の先に新しいメンタルクリニック(開業医)ができた。近いから、とても魅力があるが、山内先生ほどの名医はそういないと思うので、近所のクリニックへ変わるつもりはない。山内先生は患者の目を見ただけで状態がわかる。また、化粧、服、靴、アクセサリー、カバンなどでも、躁、鬱の区別がつく。
 山内先生は病院で仲良くなった友達でも、付き合って良い人と悪い人を区別する。自分が大好きな人でも「付き合っていけません」とおっしゃる。なんで!ひどい!!!と思ったものだ。
ある日先生は
「あなたが付き合っていけない人は“あなたをひきずる人”」とおっしゃった。最初意味はわからなかったけど。最近やっとわかるようになった。

山内先生とお天道様だけにはさからえねえ。

ある本で精神科医は自分と相性が良い人が、一番適している。と書いてあるものがあった。それはまちがいであるとまでも言わないが、私と山内先生はそう相性が良いとは言いがたい。しかし自分と違った性分の人間(山内先生)によって、世間知らずの私が今までより成長できた事がわかった。.